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「つまり――」と、トラウトは両手をこすり合わせ、そしてこすり合わせた手を眺めた。「あんたがローズウォーター郡でやったことは、断じて狂気ではない。あれは、おそらく現代の最も重要な社会的実験であったかもしれんのです。なぜかというと、規模は小さいものだけれども、それが扱った問題の不気味な恐怖というものは、いまに機械の進歩によって全世界に広がってゆくだろうからです。その問題とは、つまりこういうことですよ――いかにして役立たずの人間を愛するか?
いずれそのうちに、ほとんどすべての男女が、品物や食糧やサービスやもっと多くの機械の生産者としても、また、経済学や工学や医学の分野の実用的なアイデア源としても、価値を失うときがやってくる。だから――もしわれわれが、人間を【人間】だから大切にするという理由と方法を見つけられなければ、そこで、これまでにもたびたび提案されてきたように、彼らを抹殺したほうがいい、ということになるんです」
(288頁)
「(…)貧困は、脆いと定評のあるアメリカ人の魂にとっても、わりあいに軽い病気ですが、むなしさという病気は、強い魂も弱い魂もおなじように冒し、そして例外なく命とりになるのです。
ぜがひでもその治療法を見つけなくちゃなりません」
(299頁)
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「とにかく」とトッドはつづけた。「図書館の本はすごくよかった。ナチの強制収容所のことを書いた本は、ここのサント・ドナート図書館だけでも百冊じゃきかないよ。よっぽどおおぜいの人間が、あんなことを読みたがってるんだ。フォクシーのおやじさんの雑誌みたいに、写真はいっぱい載ってないけどさ、読んでるとぞくぞくしてきちゃった。(…)
「ぼくはそのことでほんとにレポートを書いたんだよ。どんな点をもらったか知ってる?Aプラス。もちろん、気をつけて書いたけどね。ああいうことを書くときは、書きかたがあるんだよ。気をつけなくちゃだめ」
「そうかね?」ドゥサンダーはわななく手で新しいタバコに火をつけた。
「そうさ。図書館にあったあの手の本はね、ぜんぶおんなじ書きかたなんだ。書いた人が、みんな自分の書いてることをゲロが出るほどいやがってる感じ」(…)「みんな、眠れないほど気をもんだって感じで書いてるんだ。こんなことが二度とおこらないように、われわれは気をつけなければいけないとか。ぼくもそんなふうにレポートを書いたさ。先生がぼくにAをくれたのは、ゲロを吐かずにあんな資料を読めたからじゃないかな」もう一度トッドは愛嬌たっぷりの笑顔を見せた。
(192-193ページ)
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マリーナ (…)年寄りは子供と同じで、誰かに可哀そうがってもらいたいのです。でも年寄りを可哀そうがる者などおりません。(41頁)
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じゃあ、ほんとは何ひとつ起こらなかったわけね。じゃあ、何も後悔することはないし、何も学ぶべきことはないわけね。みんな、まえとまったく同じようなふるまいを続けていけばいい、というのね。(159頁)
(…)あの警部さんがだれだったにせよ、これは断じて冗談ではないのよ。あなたたちも、あのときはそれがわかったし、何かを学びはじめていたのよ。ところが、いまはやめてしまったわ。あなたたちは、以前と同じやり方で暮らしていこうとしているのよ。(〃頁)
考えてみなきゃいけないわ、あたし。(160頁)